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東京景観宣言・1993

いま私たち都民は、これからのまちづくりの目標を「美しい景観都市・東京」の実現におくことを宣言します。

東京は、この半世紀で、戦後の焦土から業務機能を中心として世界をリードする巨大都市へと発展しました。それには多方面にわたる都市基盤の整備と都市機能の充実が計られてきました。ただその反面、かつて田園都市とさえいわれた江戸の、自然や山の手の風格、下町の人情といった地域らしさなど、失ったものも少なくありません。

景観の「景」の文字には、光と影の両方の意味があります。良いところも悪いところも景観には現われるのです。都市景観は、都市に住むひとびとの生き方、都市活動や社会のあり方を反映します。健康状態が顔色に現われるように、都市景観は都市発展の正しさのバロメーターといえるでしょう。私たち都民が、自然を愛し、歴史や文化を育み、美しく豊かな文化の創造をすすめることが、「美しい景観都市・東京」を実現するのです。

幸い、私たちの東京には、「美しい景観都市」への舞台が整っています。
山と渓谷と豊かな自然。奥多摩や太平洋の島々の大自然は、私たちに偉大なインスピレーションを与えてくれます。

緑濃い多摩丘陵、雑木林や農地が広がる武蔵野台地。武蔵野は、東京人の原風景。懐かしさとやすらぎ、野川のせせらぎがうるおいを感じさせてくれます。
そして、山の手。坂と緑の住宅地や個性的な商業地が暖かく生活をつつんでくれます。隅田川や多くの運河に縁どられた下町には、整然とした街区の中に朝顔やほおずきの細やかさと、東京湾海上はるかに富士を望む雄大さが共存します。
江戸川堤から筑波への眺めや、柴又の寅さんにみる人間味も東京の財産です。
東京の景観は、こんなにも多様で素晴らしいものです。

これから私たちは、武蔵野本来の自然をとりもどし、江戸東京の歴史を再発見し、四百年にわたる首都としての風格を思いおこし、「美しい景観文化をもつ都市・東京」の実現に努めたいと思います。
さらに私たち都民は、私たちが住む地域とコミュニティの個性を伸ばし、地域を愛する一人の人間として、個性的で魅力ある生活空間を創っていこうと思います。
子どもや、お年寄り、花にも、鳥にも、やさしく親切にしたいと思います。
やさしさとゆとりと笑い声の聞こえる町並みが続く東京は、きっと美しく、ずっと住み続けたい都市になるでしょう。

「観よく、住みよく、感じよく」

これは大正十四年十月にスタートした東京の都市美協会の標語です。
「都市美を保全し創造すること」を目指した運動は、既に七十年前全国に先駆けて、ここ東京から発信されていたのです。

私たちの都民は、いまこそ、この先見的伝統を声高らかにアッピールしながら、「美しい景観都市・東京」の実現に向って、大きな一歩を踏み出すことを宣言します。

平成五年十一月十七日

美しい景観をつくる都民会議