2005年5月6日に美しい東京をつくる都民の会が主催したシンポジウムの模様が、5月27日の建設通信新聞で報道されました。建設通信新聞社様のご好意により、当該記事を下記に転載させて頂きます。


環境創造 「美しい東京をつくる都民の会」がシンポジウム
(2005年5月27日 建設通信新聞)


「景観」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。人それぞれ思いは異なり、求めているものも違う。その景観について、一つの理念が生まれた。来月から施行される「景観法」だ。国民の一人ひとりが景観に関する価値観を転換し、個々の取り組みから自治体へ、そして国全体へと広まることを想定して骨格がつくられた。国土交通省が、社会資本がある程度整備された日本に質的な向上をもたらそうと策定した「美しい国づくり政策大綱」を基本に、観光立国をめざすものだ。この法律は、最小の自治体規模である市町村の、そして日本に住む一人ひとりの取り組みを求めている。5月6日に、東京都内で「美しい東京をつくる都民の会」が景観法についてのシンポジウム(*)を開いた。この催しをもとに、景観法について考える。


 景観法は「景観法」「景観法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」「都市緑地保全法などの一部を改正する法律」のいわゆる「景観緑3法」のことだ。

 これまで、500弱の地方自治体が自主的な条例などを中心に、景観に対する取り組みを進めていた。しかし法律という根拠がなかったために、強制力が弱く、訴訟になった時に正誤をつけにくいなどの限界があった。

◇法整備で取組み促進

 景観法では、法律という裏付けを整備することで県や市町村の取り組みを促進し、美しいまちづくりをバックアップするという理念がある。形のない「景観」というものに対して、理念とバックボーンを与えるものだ。

 景観に対しての取り組みを進めようという自治体は、自らが「景観行政団体」となる。都道府県、政令市、中核市は、自動的に景観行政団体となるが、市町村については都道府県との協議・同意を経て公示を行う。4月8日現在で、31市町村を含む127の自治体が宣言を行った。

 景観行政団体は、景観計画を定めて取り組みを進める。景観計画では、景観計画区域、景観形成についての方針、景観形成のために設ける制限事項、景観を形作る中心となる景観重要建造物や樹木などを指定する。

 景観計画区域は、都市計画区域外でも指定できるのは、今回の景観法の特徴ともなっている。水域や自然公園なども対象にできる。また、都市計画として「景観地区」を指定し、建物のデザイン、色彩、高さ、敷地面積などもコントロールすることができる強力なものだ。

◇法活用72%が関心

 実際に国土交通省で法律の制定を担当した梛野良明宮城県土木部次長は、基調講演で「やる気のある自治体が担い手となるようにした。4月に自治体に対して行ったアンケートでは、72%が景観法の活用について深い関心を持ち、17%が景観行政団体になる意向を表明している。景観を整備することは地域の活性化にもつながる」と自治体の取り組みを期待する。

◇条例制定で変更命令も

 景観法の最大の特徴でもある「強制力」は、景観条例に携わっていた自治体関係者を悩みから解放する。勧告、変更命令というものがそれだ。建築物や工作物の色、デザインについて、条例で位置付けることで変更命令を出せる。

 岸氏は「田舎では、不夜城のようなホテルのサーチライトが夜に南アルプスを照らし出す。美しい自然を考えるうえでも、景観法は大切」と話す。罰則がなかったり、罰則覚悟で違法広告を設置する業者も多い。

 景観緑3法の一部として改正された屋外広告物法では、50万円以下の罰金、30万円以下の罰金、過料などに加えて懲役も科すことができるようになった。これは、悪徳業者にとって驚異となるほか、違法広告物設置防止に大きな抑止力となることが予想される。

 これまでの屋外広告物法では、明らかに条例に違反しているはり札や立て看板に対してのみ、行政代執行手続きを使わずに除去することができた。しかし、枠がビニールパイプの立て看板や、のぼり旗などは除去が簡単にできず、悩みの種になっていた。

◇屋外広告業に登録制度

 また、これまで届け出制だった屋外広告業に、登録制度が導入され、繰り返しの違反にも目を光らせることができる。

 村尾氏は「千葉県浦安市の東京ディズニーランド周辺は、ホテル群の高さが規制されている。しかし、驚いたことに、これは都市計画でも何でもなくて、ランド内から日常空間のホテルが見えてはいけないという事業者間の取り決めによるものだ。米国では、こうした事業者間の取り決めはふつうに見られる」と、法に縛られる以外にも、事業者間で建設的な取り決めが進められてもよいと話す。

◇活動実り観光客増加

 抑止力、強制力といった規制から離れ、まちづくりにおいて、景観法はどのようなメリットがあるのだろうか。お伊勢参りで有名な伊勢市では、1992年の時点で1年間の観光客数が35万人だった。しかし、広告や看板が乱立し、まちの統一感がなく、街道一帯に電柱が立ちならんでいた。そこで、協議会を設立して屋外広告物の撤去、電線地中化、建物の意匠を極力似せることなど、景観への取り組みを行った結果、02年には、300万人と約9倍にまで観光客が増加した。

 そのほか、北海道小樽市、埼玉県川越市、滋賀県近江八幡市でも、景観形成に積極的に取り組んだ結果、右肩上がりの観光客数増加が達成されている。北九州市の門司港周辺では、地価の下落も抑えられた。

◇水辺活用の建物計画を

 砂川氏は「東京都も水辺に向かったまちづくりを施策として進めている。水に背を向けずに建物を計画したり、臨海地域も景観に配慮した施策を進めている」と話す。

 景観は、主観的な基準であるが故に景観行政は成り立たない、といわれてきた。法の検討過程でも「基準がつくれるのか」といった議論が多くあった。

 今回の景観法では、そこに住む人たちの意識と手続きという面でこの問題をクリアしようとしている。住民の大多数が一定の手続きを踏んで「よい景観だ」ということを認識できるかが、カギになる。裏返せば、そこに住む人の心の状態が景観に現れるということだ。

 進士氏は「景観については行政、経済、開発などのあり方が変わろうとしている。施行された景観法は、市民のための法律だ。これまでのようなタテ割の法律ではなく、市町村レベルで主体的に取り組める要素がすべて入れ込んである。当たり前に景観を考える時代がやってきた」とシンポジウムをまとめた。



(*)美しい東京をつくる都民の会が5月6日に開いた「景観法シンポジウム」。進士五十八東京農業大学長、美しい東京をつくる都民の会会長、砂川俊雄東京都市街地企画課長、春日敏男世田谷区玉川総合支所まちづくり部長、村尾成文国際観光施設協会会長、岸ユキ都民の会副会長(女優)が出席した

トップページに戻る