シンポジウム 「景観法を考える」
2005年5月6日(金曜日) 14時15分〜
平成17年5月6日、東京農業大学「食と農」の博物館を会場に、美しい東京をつくる都民の会が主催する「景観法を考える」をテーマとしたシンポジウムが開催された。昨年12月に施行され注目を集めている景観法について、実際に景観法の策定に直接関わり、現在宮城県土木部次長の梛野良明氏を講師に向かえ、景観緑三法の策定から、景観法の概要、そのねらいと可能性について基調講演が行われた。
これまで500弱の地方公共団体が自主条例として景観条例を制定するなど、積極的に景観の整備・保全の取り組みを行ってきたが、景観を整備・保全するための行政団体共通の基本法制が未確立、自主条例に基づく手法の限界、国としての税・財政上の支援が不十分といった現行の取り組みに限界があった。このことから、景観を正面から促えた法制を整備し、景観の意識やその整備・保全の必要性を明確に位置づけるとともに、地方公共団体に対し、いざという場合の一定の強制力を寄与することが必要となった。
この景観法が、「基本理念等基本法の性格と景観計画、景観整備機構等具体的な規制や支援措置が定められていること」、「都市部だけでなく農村部、自然公園等も対象としていること」、「地域の個性が反映できるよう、条例で規制内容を柔軟に決めることができること」、「景観計画区域の変更命令等いざというときに強制力を発揮できる措置を付与していること」、「景観計画区域の策定の提案等NPOや住民の参加がしやすいように措置されていること」、「景観地区等において建築物や工作物の形態意匠に係る認定制度が創設されたこと」、「景観協議会、景観協定等ソフトな手法による景観整備・保全手法を設けていること」、「景観重要建造物に関する建築基準法の規制緩和、予算、税制など景観整備・保全のための支援措置が併せて講じられていること」といった特徴を持っていることについて、事例などを通した講演から、そのねらいや可能性がみえた。
そして最後に、「法律は枠組みとして出来ているので、これからは主役である地方公共団体や市民の皆さんが、この景観法を活用して、日本全体で美しい景観がつくられ、守られていけば、この景観法を策定した側も嬉しい。」と、梛野氏は結んだ。
その後のシンポジウムでは、基調講演を行った梛野氏、東京農業大学学長・当会会長の進士五十八氏、東京都都市整備局市街地建築部市街地企画課長の砂川俊雄氏、世田谷区多摩川土木総合支所まちづくり部長の春日敏男氏、国際観光施設協会会長の村尾成文氏、女優・当会副会長の岸ユキ氏をパネリストに迎え、活発な議論が交わされた。パネリストの挨拶で、進士氏は、景観法は一般市民の法律にならなければいけないと思っている。市民が当たり前に思っている常識的なことが法律になったもので、市民の意欲が重要になってくると述べた。砂川氏は、水辺の景観や、開発事業と景観など、東京都の景観行政について、様々な意見を聞きながら東京都の景観を根本から考え策定していきたいと述べた。春日氏は、世田谷区役所を中心とする区の骨格づくりに取り組みで、区の公共施設などの身近なところからデザインを見直していることや、世田谷区の風景づくり条例について述べた。村尾氏は、都市開発協議会、新宿副都心の開発、事業間の協議、富山市庁舎などの事例から、これまで関わった計画と景観について述べた。岸氏は、まちづくりのソフトな面や、一人の日本人としての意識と景観について述べた。このように、景観に関して様々な視点が述べられた。
その後、参加者からは、「各自治体の景観法の担当について」、「世田谷区の独自性について」、「景観計画区域の認定について」、「美観地区が無くなることについて」、「隅田川に集まる釣り船などの、動く景観について」、「東京都、新宿区、世田谷区の道路景観」、「景観法の実効性をどのように高めていくのか」、「大きな樹木をかかえる住民への支援について」、「樹木医の有用性」など、数多くの質問や意見が挙げられた。その問いにパネリストが、時間いっぱいまで真剣に応じていた。このシンポジウムから、景観法や景観に対して住民の意識が高いことがわかる。また、意欲のある市民に対して、出来る限り応えていこうという行政の姿勢も感じることができた。こうした住民、事業者、地方公共団体、国の、東京の景観をより良くしていきたいという意欲が、景観法を最大限に活用していくことへと、つながるのではないかと思った。
文責 後藤敏之(東京農大大学院造園学専攻博士前期課程1年)
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