景観を考える夕べ 東京の「眺め」へのアプローチ
(平成17年3月12日)


―西村幸夫氏・基調講演要旨―

 眺望景観とは、日本でも古くから意識されてきたものです。富士山を見通すことの出来る「富士見通り」や、城下町でのお城の見える道路パターンは、実際に眺望を考慮して道を作ったためです。また、高台などの地形を利用して眺望を得る工夫もなされています。上野の不忍池を見下ろす清水観音堂は、その良い例でしょう。しかし今では不忍池の背景に、ホテルや大学の高層ビルが建ってしまっている。現在の斜線制限は、空地に面していれば高い建物が建てられるという規制になっていますが、景観上建てて良い、悪いの線引きを決めておくべきでしょう。眺望景観とは計画的な配慮や、地形の中の立地、そしてランドマークのようなシンボリズムの操作により得られるものです。
眺望景観を守るには、第一に眺望地点を保全することが必要です。眺望地点が公有地であるか、私有地であるかにより対応は異なりますが、その場所を景観ポイントとして保全していかなければいけません。第二に、眺望対象の保全があります。例えば国会議事堂の議員会館の建替えでは、議事堂の景観を壊さぬよう、議員会館は議事堂より低くする事が望まれます。そして第三に、眺望環境の保全も重要です。シンボル性のある建物から見た、周囲の景観も大切なのです。
 自治体での取組みをみると、盛岡では盛岡城と岩手山の間の眺望を、市街地に高さ制限を設けることにより実現している。また千代田区では、スカイラインを整えるガイドラインを設けており、八重洲と丸の内の眺望を確保するための整備計画も進められています。
 眺望景観の実現には、個々の眺望を指定し保全するか、土地利用規制で守っていくかという問題もありますし、眺望という遺産の公共性を主張し、最終的には法的な権利を目指さなければいけません。歴史的建築物の眺望というと、まだ一般的にはなじみの薄いものですが、日本人が親しんできた山など、自然の景観から始めるとよいのではないでしょうか。


―パネルディスカッション―


中島直人氏
「まちなかの眺め」

 何気ないまちなかにも眺望景観はたくさん潜んでいます。「尾の道に美あり」の言葉のように、目白通りなどの尾根から下る坂道や階段では、現在でも市街地への展望が得られます。また早稲田の大隈講堂は地域のランドマークとなっている。こういった身近な場所の眺望が見直されていくと良いのではと思います。


日無坂・富士見坂(豊島区高田)

当日レジュメ
表紙
01 目白通り・尾の道に美あり
02 早稲田大学大隈講堂・ランドマークが制する
 03 箱根山・築山という視点場
04 梯子坂・腰下ろしの坂道
05 歌舞伎町・眺めの封閉
06 迎賓館・威風堂々のヴィスタ


関口信行氏
「都市のスカイラインの眺め」

 東京の風景を時代を追って見ていくと、明治期、地形により形作られていた地平線は、都市の高層化により視点場が失われ、スカイラインも無秩序なものとなってしまいました。建物の高さを高くする地域、低くする地域の線引きを設け、東京の街全体の顔としてのスカイラインをデザインするべきではないでしょうか。


青木いづみ氏
「歴史的庭園と眺め」

 日本庭園には、庭の中にある風景世界を表現する縮景や、外の風景を取り入れる借景という手法が用いられます。しかし今では、小石川後楽園の背景には東京ドームが迫り、清澄庭園の周囲にはビルが建ち、と景観が損なわれてしまっている。周辺環境に配慮した計画のもとで、ランドスケープを守ることが重要だと思います。


伝統的ランドスケープ空間と現代的ビルディング

当日レジュメ


記録:西原まり(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻都市デザイン研究室修士1年)



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